1 財産分与とは
離婚について調べ始めると、「財産分与」という言葉をよく見かけることになると思います。
この財産分与とはどういうものか、見ていきましょう。
2 財産分与の意味
財産分与は、何のためにするものでしょうか。
それは主に、結婚してから夫婦が協力して築いてきた財産を、離婚するに当たって2人で分けるためにするものです。
ただ、これだけでは抽象的過ぎて、実際にどのようにすればよいのか分かりません。
そこで、①誰が、②何について、③どのようにして分けるのかという順序で、詳しく見ていきます。
3 財産分与の主体
まず、「①誰が」についてです。
民法には、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」(768条1項)とあります。
しかし、これだけではやはり、よく分かりません。
もう少し具体的に見ていきます。
(1) (元)夫婦
先ほどの民法の条文からすれば、「離婚した者」、つまり、元夫婦であれば財産分与の請求ができることが分かります。
また、「離婚をした者」とありますが、離婚する前でも財産分与の請求自体はすることができます。
具体的には、夫婦での離婚協議の中で財産分与を請求したり、離婚調停の中で財産分与を請求することになります。
また、「協議上の」とありますが、離婚訴訟となった場合にも、財産分与の請求をすることができます。
ここまでをまとめると、財産分与の請求ができるのは、夫婦(離婚前)又は元夫婦(離婚後)ということになります(ただし、離婚後の請求は、離婚後2年以内に限られます。)。
また、協議・調停・訴訟のどの段階でもできることが分かります。
(2) 有責配偶者
では、夫婦の一方が浮気や不倫(法的にはこれを「不貞行為」と言います。)をしたために離婚することになった場合に、この浮気や不倫をした本人が、財産分与を求めることはできるのでしょうか。
この浮気や不倫をした配偶者については、有責配偶者と呼ばれます(婚姻関係を破綻させる原因を作った人という意味です。)。
そして、有責配偶者からも、財産分与を求めることができるとされています。
なぜなら、財産分与は、結婚してから夫婦が協力して築いてきた財産を、離婚するに当たって2人で分けるためにするものであり、離婚の原因がどちらにあるかということとは関係のないことだからです。
ただし、細かい点となるため、詳しい説明はここでは割愛しますが、有責配偶者でない場合の財産分与と全く同じ内容でできるということにはなりません。
財産分与には、清算的要素、扶養的要素、慰謝料的要素の3つの要素があるとされています。
そして、「結婚してから夫婦が協力して築いてきた財産を、離婚するに当たって2人で分けるためにするもの」というのは、清算的要素について説明したものです。この清算的要素については、有責配偶者であっても、そうでない場合と同様に請求することができます。
一方、扶養的要素については請求することが難しく、また、慰謝料的要素については逆に請求される可能性があると考えられます。
(3) 内縁関係
婚姻届を出していない、いわゆる内縁関係にあるパートナーと別れるときに、財産分与を請求することはできるでしょうか。
これについては、できるとされています。
その理由は、内縁関係であっても、婚姻届が出されていないという点を除くと、2人で協力して生活をしていて法律上の婚姻とかなり似ているといえる場合には、婚姻と同じように扱ってよいと考えられているためです。
ただし、今見たように、「法律上の婚姻とかなり似ている」といえるだけの事情が必要です。
そのため、たとえば、単に交際期間が長いというだけでは足りません。
当事者の気持ちとしても、婚姻届を出さないという点以外では夫婦と同じような関係を作る気持ちがあることのほか、実際にも夫婦と同じように共同生活を送っているといった事情が必要です。
(4)財産分与を支払う側
財産分与では多くの場合、夫婦の一方から他方に財産を支払うことが確認されて、協議や調停などが終了します。
このとき、財産を払う方の当事者のことを、義務者と呼びます。
では、義務者になることが分かっている当事者の方から、財産分与の申立てはできるのでしょうか。
具体的には、義務者の方から、「財産分与として〇〇を渡す」などとして、調停や訴訟を起こすことができるかということです。
この点については、はっきりとした結論はなく、裁判例も分かれています。
これが問題となるのは、たとえば不貞をした有責配偶者の夫から離婚を請求し、相手方である妻がこれを拒んでいるケースです。
このような場合に、夫側から財産分与の申立てができるかについては、様々な事情を考慮した上で慎重に判断する必要があります。
4 財産分与の対象
次に、「②何について」を見てみましょう。
夫婦の財産の内容は、日々変わります。
財産分与を考えるためには、ある特定の時点で存在した財産を確定し、それをどのように分けるかを決めることになります。
この、財産分与を考えることになる「ある特定の時点」のことを、基準時といいます。
では、基準時は、どのように決まるのでしょうか。
(1) 別居時の財産
財産分与の主な意味は、「結婚してから夫婦が協力して築いてきた財産を、離婚するに当たって2人で分けるためにする」ことです。
そのため、そのような協力関係がなくなった時点より後に、増えた・減った財産については、夫婦の財産ではなく、個人の財産と考えます。
そして、この「協力関係がなくなった時点」というのは、原則として、別居時とされています。
なぜなら、同居をしている間は、少なくとも住居費や光熱費等の生活費の点で、経済的に協力し合っているといえる一方で、別居すると、そのような協力関係すらなくなるからです。
そこで、財産分与の対象として分け合うことになる財産は、原則として、別居したときに存在していた財産となります。
(2) 家庭内別居の場合
よくご当事者から質問を受けるのは、家庭内別居をしている場合に、家庭内別居を始めた日を基準時とすることはできるかということです。
これに対する回答は、「かなり難しい」ということになります。
(1)のとおり、同居している以上は、住居費や光熱費等について、別居している場合よりも費用を抑えることができているのが通常だからです。
そのため、婚姻関係が破綻し、家庭内別居が長年続いていたとしても、基準時は別居時となるのが通常です。
(3) 単身赴任の場合
これに対し、単身赴任の場合には、単身赴任先に向かうために別居した日が基準時とはなりません。
単身赴任は仕事の都合でしているものに過ぎず、通常は、単身赴任中も夫婦の経済的な協力関係は続いているからです。
もっとも、単身赴任中に夫婦仲が悪化し、離婚することになった場合には、どの時点を基準時とするかについて、いくつか考え方があります。
離婚を申し出たとき、最後に家を出たとき、単身赴任期間が終了したときなどの考え方がありますが、どの考え方が適切かは、具体的な事情によっても変わってきます。
(4) 特有財産
では、基準時に存在した財産は全て、財産分与の対象財産となるのでしょうか。
財産分与の考え方は、結婚してから夫婦が協力して築き上げた財産を分配するということにあります。
そうすると、夫婦で協力して築き上げた財産とはいえないものは、財産分与の対象財産とはなりません。
このような財産のことを、特有財産といいます。
具体的には、①結婚前から夫婦の一方が持っていた財産、②婚姻期間中に、親族から相続や贈与などによって取得した財産、③夫婦の合意により、他方の専用財産とした財産が、特有財産に当たるとされています。
5 財産分与の方法
ここまでで、誰が、いつの時点に存在するどのような財産について、財産分与を請求できるのかが分かってきたと思います。
では、最後に、「③どのようにして分けるのか」について見ていきます。
具体的には、財産分与の対象となるとされた財産につき、2人でどのような割合で分けるのかということです。
(1) 2分の1ルール
財産分与について、実務は「2分の1ルール」を採用していると言われています。
これはその名のとおり、夫婦の共有財産は、夫婦で半分ずつにして分けるということです。
この考え方の根拠は、夫婦が結婚期間中に財産を取得するときには、夫婦で同程度に協力していたと考えられるということにあります。
もう少し具体的に見ていきましょう。
(2) 共働きの場合
2分の1ルールが一番イメージしやすいのは、共働きで、その稼ぎが同程度の夫婦でしょう。
このような夫婦の場合、生活費は互いに折半したり、あるいは、他方が生活費を多く負担する代わりにもう片方が家事を多めにこなすなど、家族の生活を維持するために同程度の協力をしていると考えられます。
そのため、夫婦の共有財産については、2分の1ずつ分けるということが公平です。
もっとも、「同程度の協力をしている」とはいえない場合、たとえば、稼ぎは同程度なのに、他方だけ生活費を多く負担し、家事のほとんどを担っているなどの事情がある場合には、2分の1、つまり50対50ではなく、60対40などの割合に修正されることもあります。
(3) 専業主婦(夫)の場合
夫婦の他方が専業主婦(夫)で、他方だけが外で働いている場合でも、基本的には2分の1ずつ分けます。
なぜなら、専業主婦(夫)が家で家事や育児などを担ってくれているからこそ、他方がそれらに時間を割かれることなく、外で存分に働くことができるからです。
もっとも、外で働いている方の能力や資格が特別であることにより、収入が非常に多いという場合、その秀でた部分についてまで夫婦で協力していると見ることは、難しい場合があります。
そのような場合には、2分の1ではなく、別の割合とされることもあります。
ただし、ここで注意したいのは、2分の1の割合が変更されるためには、単に特別な能力や資格があるということだけでは足りません。
それに加え、それらの能力や資格等がなければできないような多額の財産を築きあげたということが必要です。
逆にいえば、特別な能力や資格を言い得るものがあったとしても、それがない他の人でも持ち得る程度の財産しかない場合には、2分の1ルールを修正する理由にはなりません。
6 まとめ
財産分与に関する基本的な考え方を見てきました。
もっとも、財産分与については、当事者間で争点となりやすい問題です。
財産分与は、離婚後の当事者の生活の財産的な基盤になるものですので、分からないことがあったら弁護士に相談されることをお勧めします。