事案概要
・平成17年 婚姻
・平成18年 長男出生
・平成25年 長男が小学校入学。問題行動が見られるようになり、妻(申立人)が叩く等暴行
・平成29年6月 妻が酔余、自宅で長男の首を絞めたり壁に押し付けたり、止めに入った夫(相手方)に包丁を振り回す等し、長男と相手方が家を出る
・同年7月 妻が夫に対し婚費調停申立て
・同年11月 長男の監護者を夫と指定する審判
原審(東京家審立川支部平成30.10.11) 妻からの婚費請求認容
長男に対する申立人の行為が別居の直接の端緒であるとしても,家庭不和に陥った原因は申立人が専ら又は主として有責であるとまでいうことはできず,申立人が相手方に対して婚姻費用分担を求めるのが信義則違反であるとか権利濫用であるとまで断ずるのは相当でない。
抗告審
婚姻費用分担義務の存否
別居と婚姻関係悪化の責任の所在
・夫と妻が別居に至った経過は,平成29年6月10日に,酔って帰宅した妻が,長男に対し首を絞め,壁に押し付けて両肩をつかむなどの暴力をふるい,これを注意した夫ともみ合い,つかみ合いとなり,包丁を持ち出して夫に向けて振り回し,夫を負傷させるなどの行為(以下「本件暴力行為」という。)に及び,それを見た長男が玄関から裸足で飛び出したことから,夫が,自分と長男の生命,身体の危険を感じ,長男とともに家を出てホテルに宿泊した後,妻と別居するに至ったというものである
・このような経過に照らすと,夫と妻が別居するに至った直接の原因が本件暴力行為であることは明らかである
・妻は,本件暴力行為の以前から,長男を叩く,蹴るなどしており,このような度重なる暴力によって長男の心身に大きな傷を負わせていたことがうかがわれ,その上に,酔余,生命に危険が生じかねない本件暴力行為に及んだものであって,妻のこれらの暴力が長男に与えた心理的影響は相当に深刻であったとみられる。そして,児童相談所が,長男を妻の監護下に置くことはできないとの判断の下に一時保護の措置をとり,夫は,妻と別居して監護環境を整え,家庭裁判所により長男の監護者に定められ,その監護をすることとなったものである。このような経過を経て,長男は,妻と暮らしたくないとの意思を明確に表しており,夫が妻との別居を継続しているのは,本件暴力行為そのものに加え,このような長男の状況やその身の安全を慮ってのことでもあるということができる
・以上によれば,夫と妻の別居の直接の原因は本件暴力行為であるが,この本件暴力行為による別居の開始を契機として夫と妻との婚姻関係が一挙に悪化し,別居の継続に伴って不和が深刻化しているとみられる。そして,本件暴力行為から別居に至る夫と妻の婚姻関係の悪化の経過の根底には,妻の長男に対する暴力とこれによる長男の心身への深刻な影響が存在するのであって,このことに鑑みれば,必ずしも妻が夫に対して直接に婚姻関係を損ねるような行為に及んだものではない面があるが,別居と婚姻関係の深刻な悪化については,妻の責任によるところが極めて大きいというべきである。
双方の経済状況
・妻の年収は330万円、夫が住宅ローンの返済をしている住居に居住
・夫の年収は900万円、住宅ローン月約25万円を負担、別途住居賃借(月約19万円)、長男の私学学費(年額約92万)や学習塾費用(月額約4万)を負担
小括
妻及び夫の経済的状況に照らせば,上記のとおり別居及び婚姻関係の悪化について上記のような極めて大きな責在があると認められる妻が,夫に対し,その生活水準を夫と同程度に保持することを求めて婚姻費用の分担を請求することは,信義に反し,又は権利の濫用として許されないというべきである
結論
本件申立ては理由がなく,却下