1 事案概要
夫婦は、令和2年1月からよく会うようになり、同年6月から交際を開始するとともに婚約、同年8月に婚姻の届け出をしたが週末に会う程度で同居せず、同年10月に妻が同居を拒否し、その翌日に夫に対し婚姻費用の支払いを求めた。
妻は夫に対し、手紙で、夫婦観、人生観に基本的な相違があると主張していた。
2 判断
妻は夫と婚姻後も一度も同居しないまま、夫との同居を拒んだ結果、婚姻前と同様に両親と同居して行政書士業を続けている。
妻の夫への手紙の内容に照らすと、妻と夫とが夫婦としての共同生活を始めることは、水と油のように元々無理なことであって、十分な交流を踏まえていれば、そもそも婚姻が成立することもなかったと推認できる。本件において当事者間の夫婦共同生活を想定すること自体が現実的ではない。
以上の事実関係の下では、通常の夫婦同居生活開始後の事案のような生活保持義務を認めるべき事情はない。
3 その他
婚姻費用分担義務について、以下のように丁寧に説明している。
「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない(民法752条)。夫婦が同居して共同生活を営むと、各自独立して生活していたときとは異なり、共同化した家事や育児を分担することで、夫婦の一方は就労の制約を受けながら、内助の功により他方の就労を支え、これにより得た収入から扶助を受けるという相互協力関係が成立する。そうした夫婦の同居協力関係の下での夫婦間の扶助は、自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務となると解される。」