婚姻費用分担審判において、民法772条による嫡出推定を受けない子と父との父子関係の存否を判断することなく、父の子に対する扶養義務を認めた原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるとした事例(最決令5.5.17)

父と子 婚姻費用・養育費

1 事案概要

夫婦の婚姻後、約2か月後に子が出生したが(※)、その後夫婦は別居した。
夫は、子が自分の子であるか疑問を抱き、DNA検査をしたところ、結果は、生物学上の親子関係を否定するものであった。
夫は親子関係不存在確認調停を申し立て、そこで実施されたDNA鑑定の結果も上記と同様であったが、同調停に妻が出席せず、調停は不成立となった。
他方、妻は婚姻費用分担調停を申し立て、これが不成立となったことから、審判に移行した。
原々審は、父子関係は存在しないとした上で、妻が婚姻費用の分担を求めることは信義則に反するなどとして、妻の婚姻費用分担調停の申立てを却下した。
原審は、妻自身の生活費の分担を求めることは信義則に反するとしつつ、子の養育費相当分については、父子関係の不存在を確認する判決が確定するまでは、夫は子に対する扶養義務を免れないとして、婚姻費用の支払いを命じた。

※ 民法772条は、「婚姻の成立の日から200日を経過した後・・・に生まれた子」について、夫の子と推定すると規定する。したがって、婚姻の約2か月後に生まれた子には、同条による推定が及ばない。

2 判断

婚姻費用分担審判の手続において、夫婦が分担すべき婚姻費用に、民法772条による嫡出の推定を受けない嫡出子の監護に要する費用が含まれるか否かを判断する前提として、その子に対する父の扶養義務の存否を確定することを要する場合に、裁判所が父子関係の存否を判断することは妨げられない。
ところが原審は、父子関係の存否は訴訟において最終的に判断されるべきことを理由に、父子関係の不存在を確認する旨の判決が確定するまでは夫は扶養義務を免れないとして、父子関係の存否を審理判断することなく、夫の子に対する父子関係に基づく扶養義務を認めたのであり、この原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。

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