婚姻費用分担調停成立後の義務者の減収につき、具体的に予見されていたものとはいえないとして、婚姻費用の減額を認めた事例(東京高決令1.12.19)

男性と減収を示す文字 婚姻費用・養育費

事案概要

・平成30年3月 婚姻費用分担調停(前件調停)において、婚姻費用月額20万円の合意成立
・同年6月 夫(申立人)が婚姻費用減額調停申立て(平成31年2月審判移行)
・同年7月 夫(申立人)が再雇用契約締結により減収
・平成31年3月31日 夫が退職

夫が婚姻費用減額調停を申し立て、審判において減額が認められたことから、妻がこれを不服として即時抗告した

原審判(東京家審令1.9.6)

婚姻費用減額:積極

・前件調停時には、夫は少なくとも給与収入1600万円以上を得ていたものであるが、その給与収入は平成30年7月からは再雇用により月額55万円、年額換算して660万円に減額され、平成31年3月に退職して同年4月以降は給与収入を得ていないことが認められる
・前件調停時に前提とされていた夫の稼働状況が変化したことに伴いその収入状況も大きく変動していたことに照らすと、本件においては、調停成立時に前提としていなかった事情の変更が生じ、調停の内容が実情に適合していないものとして、改めて婚姻費用分担額を定めるのが相当

妻の反論:採用できない

・妻は、前件調停時において、夫が平成29年12月時点で64歳であり、平成31年には定年退職の予定であるから、年収は年々減額されていると主張しており、夫の収入が大幅に減額されることは予想し得た事情であり、そのため妻は、当時の夫の収入からすれば極めて低額な婚姻費用(妻は約33万円を主張)であったにもかかわらず、前件調停を成立させた旨主張する
・しかし、夫の収入減少や退職は抽象的には予想し得るとしても、具体的な減少額や減少時期が確定していたわけでもないから、当時の給与収入から半分以下の減少になることが前提になっていたとはいえない

結論

・標準算定方式を基本として定める
・平成30年7月から平成31年3月までの夫の収入は約1333万円(株式の配当収入+給与収入)、同年4月以降は約429万円(株式の配当収入)
・平成30年7月から平成31年3月まで月額15万2000円、同年4月から離婚又は別居解消に至るまで月額3万2000円

本決定

婚姻費用減額:積極

・前件調停時に前提とされていた夫の稼働状況が前件調停後に変化し、これに伴ってその収入状況が大きく変動したことにより、前件調停については、法的安定性の観点を踏まえても、これらを維持することが相当でなくなったものと認められるから、これを変更するのが相当である
・平成30年7月から平成31年3月までは月額15万2000円、同年4月から離婚又は別居解消に至るまでは月額9万2000円

妻の反論:採用できない

・夫の退職や再雇用、これらに伴う収入の減少は、前件調停の段階でも蓋然性の高いものとして予想されていたものと認められるものの、確実なものとして具体的に予見されていたものではなく、(中略)相互の互譲によって夫が支払うべき婚姻費用の分担額が月額20万円と合意されたものと認められる
・仮に妻が、上記の婚姻費用の分担額が前期のような予想される事情の変更を踏まえたものであって、後にこれが生じたとしても変更されることはないと考えていたとしても、夫において、同様の認識であったとは認められない
・婚姻費用月額20万円の合意は、夫の退職や再雇用、これらに伴う収入の減少を前提としたものであったと認めることはできず、これらの事情によって変更されることもやむを得ない

年金について

・夫は、年金受給資格を有しているものの、70歳までこれを受給するつもりはないとしている
・夫は、65歳で年金を受給を開始していれば、年額約250万円の年金を受給することができる
・少なくとも再雇用の期間が満了して夫が無職となった平成31年4月以降は、上記の年金収入を給与収入に換算した約390万円(年金収入については職業費が不要であることを考慮し、基礎収入割合39パーセントに20パーセントを加えて基礎収入を算定し、基礎収入額を基礎収入割合38パーセントで除したもの)について、夫が本来であれば得ることができる収入として、婚姻費用の分担額の算定の基礎とするのが相当

その他

夫が妻の居住する自宅の住宅ローンや管理費等を負担しているものと認められるから、婚姻費用の分担額から、夫の収入に対する標準的な住居関係費(約2万8000円)を控除するのが相当

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