夫婦共有財産の精算について共有物分割訴訟を提起したことが権利の濫用に当たるとされた事例(東京地判令和3.3.9)

建物と共同所有の看板 財産分与

事案概要

・昭和61年 婚姻
・平成3年 長男出生
・平成7年 夫婦が本件建物を購入。持ち分は夫73分の64、妻73分の6、夫の父73分の3
・平成26年 夫婦が家庭内別居
・平成31年 離婚認容判決確定
・令和元年5月 夫が本件建物を出て単独で生活
・同年6月 夫が本件訴訟提起
・同年12月 妻が夫に対し、財産分与を求める調停の申立て

夫が、父及び妻に対し、本件建物について全面的価格賠償の方法による共有物の分割及びこれに伴う所有権移転登記手続きを求めて訴訟提起した(本件訴訟。夫の前記請求内容を「本件請求」)。
これに対し妻は、夫の請求は権利の濫用に当たると主張した。

判断

判断枠組み

・夫婦の共有財産の精算について共有分割訴訟を提起することは許容されるが、それが権利の濫用に当たるかは別途検討する必要がある
・権利の濫用に当たるか否かは、当該共有関係の目的、性質、当該共有者間の身分関係及び権利義務関係等を考察した上、共有物分割権の行使が実現されることによって行使者が受ける利益と行使される者が受ける不利益等の客観的事情のほか、共有物分割を求める者の意図とこれを拒む者の意図等の主観的事情をも考慮して判断するのが相当(最高裁平成7年3月28日決定参照)

本件へのあてはめ

・本件建物は、夫婦が婚姻中に夫婦及び子が共同生活をするための自宅として購入し、購入資金の一部を出捐した夫の父・夫・妻の共有名義で所有権移転登記手続きをしたもので、夫婦の実質的共有財産に該当
・本件建物には現在も、妻と子が居住継続
・これらの事実によれば、本来であれば本件建物の夫婦の共有関係の清算については、財産分与の対象とされて分与の方法等を当事者間で協議し、協議が整わないときは裁判所による協議に代わる処分として分与の方法等が定められるべきものである
・実際、妻は財産分与調停の申立てをしており、その手続きの中で協議するのが相当
・そして、夫婦共有財産として夫の退職金約1279万円が存在することなどを考慮すれば、本件建物の夫の共有持ち分を妻が取得する形で財産分与がされる可能性も否定できない
・他方、本件建物の共有物分割の方法として妻が全面的価格賠償の方法により本件建物の所有権を取得する場合に原告及びその父に支払う代償金は、約1364万円が相当と認められるところ、妻の現預金残高等に照らせば、代償金を支払うに足りる資力を当然に有しているとはいえない
・そうすると、夫が共有物分割請求という形式を選択することで妻の本件建物の単独取得の可能性を奪うことになるところ、妻は、財産分与によれば、夫の退職金についても持ち分2分の1程度を有することも考慮すれば、妻の本件建物の単独取得の可能性を奪うことは相当ではない
・本件請求が認められなかった場合に夫が具体的に生活上の支障を受けるような事情は認められない
・他方、妻は、平成18年から現在まで引きこもり状態の子を扶養し、子の生活環境を変えないために本件建物の単独取得を希望しているところ、本件請求が認められた場合の不利益は大きい
・本件建物についての共有物分割請求は著しく不合理であり、権利の濫用に当たり許されない


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