妻の夫に対する婚姻費用分担請求において、妻が正当な理由なく別居を開始したことを減額理由とし、夫の役員報酬を0円と認定した等の原審の判断は相当であるとした事例(福岡高決宮崎支部令2.12.10)

お金と家 未分類

事案概要

・妻(申立人)は双極性感情障害の病名で、平成16年から令和元年8月までの間、13回入院し、入院期間以外の期間は夫(相手方)と同居していた
・妻は、令和元年8月に退院後、夫と同居していた家に戻ることなく、以降、夫と別居している
・夫は、令和元年、役員報酬として、A社から1575万円、B社から600万円、Cから20万円を得た
・夫は、同年6月12日、A社代表取締役に就任し、役員報酬は月額160万円であった
・同日開催されたB社株主総会において、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの役員報酬を、全ての取締役に対して支給しない議案が可決された

妻が夫に対し、婚姻費用の支払いを求めたところ、原審が月15万円の婚姻費用の支払い等を命じる審判をしたのに対し、妻が即時抗告を申し立てた

原審

妻の同居義務違反

・妻は夫から日常的な暴行や暴言を受け続けていたとするが、その主張を裏付ける的確な資料は提出されていない
・妻は、正当な理由なく別居を開始し、同居協力扶助義務(民法752条)を怠ったものであり、婚姻費用分担請求が権利濫用に当たって許されないとまでは解されないものの、相手方の分担義務の程度は、通常の場合から相当程度減額されるのが相当

婚姻費用の額

妻の収入

・妻は年金を受給しており、年金額×(基礎収入割合+職業費割合)=給与収入×基礎収入割合という算式が成り立つ
・これを前提に年金を給与収入に換算すると、134万1853円になる

夫の収入

・夫は、令和元年6月にA社代表取締役に就任し、その後は月額160万円の役員報酬を得ていることから、婚姻費用を算定する際の役員報酬としては、1920万円(160×12)とするのが実態に即している
・B社分については、令和元年に600万円の役員報酬を得ているが、その後に0円とされている。全役員を対象としたものであること等の事情を考慮すると、妻が主張する、婚姻費用の分担額を低額に抑える目的でされたものとは認められない
・C社については20万円
・以上より、夫の給与収入は、1940万円(1920+20)
・(中略)不動産収入を加算すると、総収入は2198万0848円

婚姻費用算定

・婚姻費用については、改定標準算定表で算定するのが相当である
・本件においては、義務者である夫の総収入が、算定表の上限である2000万円を超えるものの、超過金額が約200万円と多くないことから、算定表を採用することには合理性が認められる
・算定表に当てはめた場合の金額、妻の同居協力扶助義務違反の事情、一件記録に顕れた事情を考慮すると、婚姻費用の金額は月15万円

判断

妻の同居義務違反

夫による日常的な暴力や暴言は認められず、原審の判断は相当

夫の役員報酬減額

・役員報酬を支給しない議決は、売上高及び利益が大幅に悪化したことが原因である
・妻は、役員退職金600万円などにより一時的に経費が増額しているにすぎないと主張するが、前年と比べて売上高が約6510万円、売上総利益が約876万円減額しており、一時的な損失にとどまり、将来的に役員報酬が得られる見込みがあるとは認められない
・B社の役員報酬を0円と認定した原審の判断は相当

年金の給与所得への換算方法

年金額を「1ー(職業費の割合)」で除する方法ではなく、基礎収入割合に職業費の割合を加算して基礎収入を計算し、それに基礎収入割合を除して給与収入に換算する方法については、年金収入に職業費が不要であることから修正する方法として合理性があり、その金額の差が大きくないことからしても、いずれの計算方法によるかは、裁量の範囲内

算定表の利用

超過金額が約200万円と多くないことから、算定表を前提に婚姻費用の金額を算定した原審判は相当

結論

抗告は理由がなく、棄却

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