1 事案概要
夫婦は婚姻後15年以上共同生活を続けていたが、夫は特に理由もなく自宅を出て別居を開始した。
夫は別居期間中、妻の自宅家賃や水道光熱費等を負担して経済的に支援した。
夫には定職があり、持ち家も有しているのに対し、妻は無職、借家住まいである。
夫婦は、同居している間、犬3頭を飼っていたが、別居後は、妻が自宅で飼育を続け、夫が餌代を負担していた。
夫が離婚を請求したのに対し、妻は離婚を争うとともに、仮に離婚が認められるとしても、扶養的財産分与として、犬3頭が生存する限り、毎月妻方の家賃相当額が支払われるべきと主張した。
2 判断
① 離婚請求について
別居期間は既に8年を超えており、この点だけからみても婚姻は修復の見込みがなく、既に破綻しているといわざるを得ない(民法770条1項5号)。
夫は、長期にわたる別居期間中、妻方家賃や水道光熱費を負担し続け、経済的に支援していることに鑑みると、夫は特に理由もなく別居を開始したものとはいえ、離婚請求が信義に反するものとまでは言い難い。
② 犬の財産分与について
犬3頭について積極的な財産的価値があるとは認め難いものの、夫婦共同の財産に当たる。
犬3頭については夫婦の共有と定め、持ち分に応じて飼育費用を負担するのが相当である(民法253条1項、649条)。
夫は定職があり持ち家も有しているのに対し、妻は無職、借家住まいであることに照らすと、持ち分割合は、夫2、妻1として同割合で費用を負担するのが実質的公平にかなう。
家賃や餌代が今後も発生し続けることは明らかであるから、人事訴訟法32条2項により、夫に定期金の支払いを命じることが相当である。