事案概要
・平成21年~ 婚姻、姉妹をもうける
・平成30年4月 母が男性とラブホテルに行ったことが発覚し、父が子らを連れて実家に行き別居
・同年8月~ 調査官調査
・同年10月 長女がフットベースチーム入部
・同年11月~ 月1回の定期的な面会交流
・平成31年2月 原審判
・同年4月 二女がZ小学校入学、姉と同じフットベースチーム入部
・令和元年7月~ 調査官調査
母が父に対し、監護者指定及び子の引渡しを求め、原審はこれを認めたことから、父が即時抗告(抗告審の時点で長女はZ小学校4年生、二女はZ小学校1年生)
原審判(福岡家裁大牟田支部平31.2.22)概要
・父宅(実家)では、子らの成育状況に特段の問題もない
・現在の父による監護は,平成30年4月の別居後のものであり、直ちにこの監護の継続を特に重視すべき状況にあるとまではいい難い
・当事者双方のいずれかが、監護能力、監護環境等につき特に優れているとまでは断じ難い
・母については、抑うつ神経症にり患しているが、現在、両親等の支援のもと、就労状況・精神症状のいずれも安定している
・母は、別居前の時期に、他の男性と男女関係を持つなどしたことが窺われるが、現在、かかる状況が続いているとは認められず、申立人が再度かかる行動に出る可能性が高いとまではいえない
・他方で、父においては、別居後、母と本件子らとの面会交流につき、従前は宿泊付きのものが実施されていたところ、母の了承を得ることなく、一方的に日帰りでの面会の方式に変更している。母子間の交流を必要以上に制限するものとして、子の福祉の観点からみて、適切な対応であったとはいえない(ただし、その後宿泊付きの面会交流が再開)
・本件子らの心情等についてみるに、長女は、母及び妹と共に居住することを明確に希望している
・妹についても、母により好意を持っている旨の心情を明確に示している
・以上を総合すると、当事者双方の監護能力、監護環境等については、いずれが特に優位にあるとまではいえないものの、従前の監護については主として母により行われた時期も比較的長期間あるほか、本件子らの心情を踏まえ、母親による監護が実施されることが、本件子らの福祉によりかなう
・したがって、本件子らの監護者を母と指定するのが相当であり、父から母に対し、本件子らの引渡しがされるべきといえる
抗告審判断
・母は、平成28年7月には抑うつ神経症の診断を受け、パチンコや貴金属の割賦購入、借入金の増加、他の男性との密接なやり取りもこうした時期に重なっていることからすると、父が安定的に育児に関与できるようになった頃には、母の精神状態は極めて不安定となっており、その監護能力も相当低下していたと考えられる。そのため、別居に至るまでの3年程度は、食事の準備を除けば、子らの監護を主として担っていたのは父であったと推認される
・このような経緯からすると、同居中の子らの監護についての時間的ないし量的な実績は、母と父とで明らかな差があるとはいえず、その時々の生活事情を踏まえて相補って監護していたのが実情と考えられるが、子らの乳児期に主として監護をしていたのが母であることや、子らの発言の中に、母への強い思慕を示す言葉が見られることからすると、子らは、母に対してより強い親和性を有していることが窺われる
・もっとも、相対的な親和性の強さをこのように理解したとしても、子らは父とも良く親和していることに加え、物心ついた頃からH(父方実家付近)で生活し、原審判後には、二女もZ小学校に入学するとともに、フットベースチームにも入り、いずれについてもよく適応している
・父は、母との別居後、子らの生活や学習の細部にわたって配慮し、その心身の安定に寄与している
・父の監護能力と子らとの関係に問題は見受けられない
・現在は、母との宿泊付きの面会交流も安定的に実施されている状況にある
・就学後の子らについて監護者を定めるに当たっては、従前からの安定した監護環境ないし生活環境を維持することによる利益を十分考慮する必要があり、乳幼児期の主たる監護者であった母との親和性を直ちに優先すべきとまではいえない
・長女は,母との面会交流時には母と暮らしたいと繰り返し発言しているが、担任教諭に対してはZ小学校や友人と離別することへの強い不安を訴えているのであって、母への上記発言が長女の母への思慕を示す表現であるとしても、本件監護者指定における位置付けについては慎重に評価・判断する必要がある(なお、二女は、調査官との面接時に、父から怒られることやフットベースに参加することに不満を漏らしているが、その口調や表情から深刻さは感じ取れなかったとの調査官の意見もあることに加え、二女は、父への親和性を示す発言もしており、現在もフットベースを継続していることからすると、その個々の発言に結論的な意味を持たせるべきではない)
・以上の事情を考慮すれば、子らにとっては、現状の生活環境を維持した上で、母との面会交流の充実を図ることが最もその利益に適うというべきであるから、子らの転居・転校を伴う母への監護者指定と子らの引渡しは相当ではない
結論
原審判取消し、母の申立てをいずれも却下