父と子の直接交流を認めなかった原審を基本的に維持しつつ、間接交流のため母から父に対し子らのメアド等を通知すべきとする限度で原審を変更した事例(東高決令1.8.23)

メール 面会交流

事案概要

・平成11年 婚姻、以後3子をもうける
・平成28年1月 離婚訴訟において和解成立、和解条項で父子の月1回の直接交流等を定める
・同年3月 父と子3人との宿泊付き面会交流
・同年4月 長男が父に対し、前回の面会で信用できなくなり、もう面会したくない旨メール
・同年11月 父が調停申立て(後に不成立、本件審判手続きに移行)
・平成31年2月 原審が間接交流に留める内容の審判(父が即時抗告)

※本決定当時(令和元年8月)の子らの年齢は、長男19歳、二男16歳、三男14歳

原審の判断

直接の面会

・未成年者らは、現在、父との面会を強固に拒否している状況にある
・かかる状況の下で、未成年者らに父との面会を強いるとすれば、未成年者らの判断能力や人格を否定することになり、未成年者らの福祉に反する結果となってしまう
・これに加え、未成年者らの年齢等に鑑みれば、父と未成年者らとの面会は、父や母の意思のみによって実現することが不可能というべきであって、現時点において、母に対し面会の実施義務を課すことは相当ではないというべきである
・よって、本件和解条項のうち直接の面会について定める第12項は、その効力を失わせる

間接交流

・母による成績表及び写真の送付、父による手紙やプレゼントの送付は有用である
・メールやSNSを用いたメッセージの送信について、未成年者らが父との面会を強固に拒否している状況の下では、未成年者らが父に連絡先を教えることに同意するものとは思えないし、未成年者らの意思に反して未成年者らの連絡先を父に伝えれば,未成年者らが父に対する拒否感を更に強めるだけの結果になり、逆効果となることが容易に予想される
・現時点でメールやSNSを用いたメッセージの送信による間接交流を行うことは相当でない

本決定の判断

子らの意向

・当審において、未成年者ら手続代理人が再度、未成年者らの意向確認を行ったが、全員、充実した学校生活を送っており、それぞれ学業等に忙しいので、今はそっとしてほしい旨の希望を述べており、父との面会交流を拒否する姿勢に変化はない

間接交流

・直ちに直接の面会を再開するのは困難であるとしても、未成年者らとの関係修復を図るため、父に対して、より簡便で効果的な連絡手段の利用を認める必要性が高いと考えられるし、それによる具体的な弊害が大きいわけでもない
・したがって、未成年者らが抵抗感を感じるであろうことを十分考慮しても、電子メールやLINEを用いたメッセージの送受信による間接交流を認めるべきであり、そのために、母において、未成年者らのアドレス等の連絡先を父に通知するのが相当である(もとより、父においては、メッセージの送信によって、より未成年者らの反感を増すことのないよう、送信頻度やその内容については十分な配慮が求められる。)

直接交流


・父は、平成28年3月の面会や平成28年4月の面会の際の父の行動は正当なものであるし、面会交流の意義について未成年者らが誤った理解をしている以上、監護親である母において、適切な指導助言を行う義務を課すべきである旨主張する
・しかし、父の行動は、未成年者らにとって、自分たちをだまして実家に連れて行ったのではないかとの疑いを生じさせるものである上、その後、長時間にわたって自己の正当性を主張したことや、未成年者らの言い分に対して耳を傾けることなく、自らの考えを押し付けようとする面があったこと(なお、平成28年4月の面会の際には、「会えなくなったら、寂しくて自殺しちゃうかもしれないよ。自殺してほしい?死んでほしいと思う?」等の不適切な発言もされていた。)等からすると、未成年者らが父との面会交流に消極的になったのにも一応の理由があるというべきである
・そして、未成年者らの年齢や理解能力にも照らすと、面会交流の実施に際しては、未成年者らの意向を十分に尊重する必要があると考えられるし、その明確な意思に反して、直接の面会という負担の大きい面会交流を強制することも相当ではない
・確かに、上記のような父の行動は、一般に面会交流を禁止・制限すべき事由に当たるとまで評価できないものであるが、一定程度の年齢・理解能力を有する未成年者らが面会交流を明確に拒否する意思を有している以上、監護親に対して、直接の面会の実施や、面会交流に前向きになるような説得を義務付けるのではなく、むしろ、父の側で、手紙、メール、LINE等の方法を用いて、自らの思いを未成年者らに率直に伝えることによって、未成年者らの抵抗感等を和らげ信頼関係を構築するように努め、未成年者らの了解を得た上で、直接の面会の実施につなげていくべきものと考えられる

結論

母は、父に対し、長男、二男及び三男の電子メールのアドレス及びLINEのIDを通知するとともに、父と未成年者らがこれらの通信手段を介して連絡を取り合うことを認めなければならない

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