訴訟上の和解における①面会交流及び②子の氏を変更しないとの合意に元妻が違反したとして、元夫が慰謝料の支払いを求めた事案において、①は消滅時効、②は不法行為とはならないとしていずれの請求も棄却した事例(東京地判令2.5.20)

子を抱きかかえる父 面会交流

事案概要

・平成17年 子出生
・平成23年 離婚訴訟において和解により離婚(以下、この和解を「本件和解」)
 本件和解では、親権者を元妻とし、①子の氏は子が15歳に達するまでは変更しない、②元夫と子と最低月1回の面接交渉を合意

・同年12月~ 元妻(被告)が予定されていた面会交流を子の体調不良を理由に拒否し、以後面会交流なし
・平成24年 元妻が子の氏を元妻と同じ氏に変更
・平成25年7月 元夫が子の小学校に現れ、対応した警察官の面前で、元妻に対し、子と手紙のやり取りさえできれば子に会いに来ないと合意(以下「本件合意」)



元夫が元妻に対し、平成25年3月から平成31年2月までの面会交流権の侵害による精神的苦痛の慰謝料として360万円、子の氏の変更等による精神的苦痛の慰謝料として50万円等の支払いを求め、平成31年に訴訟を提起した事案

判断1:面会交流権の侵害

不法行為の成否

・元妻は、元夫から平成25年3月1日、同月29日、同年6月23日に面会交流の実施を求められたにもかかわらず、いずれについても無視して応じなかった
・面会交流権は非監護親に認められる権利であるところ、(中略)仮に元夫が過去の面会交流において、子の帰宅時間を守らなかったり、子が顔にけが(薄い痣)を負ったのにそれを把握していなかったりした事実が加わったとしても、それだけでは元妻が元夫と子との面会交流を拒否することを正当化することはできない
・元妻の面会交流拒否は元夫に対する不法行為を構成する

消滅時効

・ところで、平成25年3月から本件合意がされた同年7月までの間に、元妻がそれ以外に元夫から面会交流の実施を求められてそれを拒否したことを認めるに足りる証拠はない
・したがって、元妻が元夫と子との面会交流を拒否したとして不法行為責任を負うのは、前記の範囲(平成25年3月~6月)に限られる
・それから本件訴訟提起までに3年以上が経過しているから、消滅時効が完成している

判断2:氏の変更

・元妻は、元妻と子の姓が異なることから、子の小学校の入学手続きを含めて様々な手続きが円滑に行われないことがあり、また、周囲の者が元妻と子の姓が異なる理由を尋ねることがあり、子の心情にも配慮する必要があったことから、子の氏を変更する手続きをした
・これは、子の福祉の観点からみてやむを得ないことであるというべきであるから、元夫に対する不法行為を構成すると認めることはできない

結論

面会交流権の侵害を理由とする損害賠償請求、氏の変更を理由とする損害賠償請求はいずれも理由がない

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