事案概要
・平成19年 婚姻
・平成21年、同23年 長女及び長男がそれぞれ出生
・令和元年5月 妻と子らが自宅を出る形で別居
夫が妻に対し、正当な理由がないのに子らを連れて家を出て、夫の子らに対する監護権を侵害した等主張して、慰謝料300万円等を請求した事案。
判断
判断枠組み
・子の監護権は、第一次的には子の利益のためのものであって父母の利益を保護するためのものではない。
・そのため、父母の一方(監護親)が別居に際して子を連れて出たことなどによって父母の他方(非監護親)による子の監護権行使が妨げられている場合であっても、それが一概に非監護親の監護権を侵害するものとして不法行為を構成するとはいえない。
・①別居前の子の監護状況、②別居に至った経緯及び③別居の態様、④別居後の父母及び子の状況、⑤監護に関する子の心情ないし意思等の諸般の事情を総合的に考慮し、監護親が非監護親による子の監護権行使を妨げていることが社会通念上相当性を欠くといえる場合に初めて非監護親に対する不法行為を構成する。
本件
①別居前の子の監護の状況:夫婦が分担して子らを監護し、夫も子らの監護に積極的に関わっていた。
他方で、
②別居に至った経緯:長女が妻に対し、夫から風呂場のドアに押し付けられて痣ができた旨訴えたことがきっかけとなっており、かかる事実は実際に認められるから、妻が子らを連れて別居したこと自体が合理的な理由のない不相当なものであったとはいえない。
③別居の態様:夫が寝ている間に妻と子らが家を出て行ったというものであり、妻が有形力を行使して子らをその意思に反して同行させたなどの事情は認められない。
④別居後の子の状況:子らの生活状況や妻による監護の状況、子らと妻との親和の状況等に特段の問題は認められず、子らは安定した生活を送っている。
⑤子らの監護に関する心情ないし意思:妻の下での生活を望んでいることがうかがわれる。
なお、妻は別居後現在に至るまで夫と子らとの面会交流に応じていないが、現在面会交流の実施の可否や方法等については家事調停又は審判による調整が図られている状況にあることからすれば、現時点で面会交流がなされていないことを殊更に重視することは相当でない。
結論
妻に夫の監護権侵害の不法行為は成立しない。