不貞相手に対する損害賠償請求において、婚姻関係破綻の有無が検討された事例(結論消極。東京地判令4.6.1)

車いすの高齢の女性と介護士 不貞行為

事案概要

元妻(原告)が、元夫の不貞相手の女性(被告)に対し、慰謝料200万円及び遅延損害金の支払いを請求した事案。
被告は、原告と元夫との婚姻関係は、不貞開始当時既に破綻していたなどと主張した。

夫婦歴

・平成19年10月に婚姻し、一女をもうけた。
・家族3人で都内のマンション(以下「原告らの自宅」という。)に居住していたが、令和元年6月頃、原告が原告の実家で生活するようになり、令和2年2月以降は、小学生の長女も原告の実家で生活するようになった。

不貞の経緯とその後

・令和元年2月ないし3月頃、被告と元夫は、被告がアルバイトをしていた銀座のクラブに元夫が客として来ていたことから知り合った。
・遅くとも令和2年3月頃以降、被告が原告らの自宅で寝泊まりするようになり、肉体関係を持つ。
・令和2年5月30日、元夫の不貞が発覚。
・令和2年8月頃、元夫が原告を相手方として、離婚調停申立て。
・令和3年3月、原告と元夫が調停離婚。
・令和3年5月、原告が被告に対し、本件訴訟を提起。

判断

不貞行為時に婚姻関係が破綻していたか

婚姻関係が破綻した状態というのは、夫婦双方の主観及び客観的な実体に照らして、婚姻共同関係を修復することが著しく困難となったといえる場合である。

別居か否か(消極)

令和元年6月以降、原告は、元夫と別の場所(原告の実家)で生活していた。
もっとも、その理由は、入院中や退院後の原告の母を介助する必要があったからである。
また、原告らの自宅には、原告の日常生活に必要な物品が運び出されずに置かれていた。
そうすると、婚姻関係の破綻を裏付ける事実としてのいわゆる「別居」ではない。
仮に「別居」だとしても、(不貞開始時である)令和2年3月頃までは1年弱の間にとどまり、婚姻関係の破綻を基礎づけるような期間ではない。

夫婦の音信、経済状況(経済的一体性を肯定)

・令和元年6月以降、夫婦間にはほとんど音信がなかった
・他方、原告は、令和元年6月以降も、仕事に就かず、元夫が管理しているファミリーカードを利用するなどして生活費を得ており、同居時と同様に、元夫との経済的一体性が維持されていた。

離婚協議(消極)

(不貞開始時である)令和2年3月頃、夫婦間で離婚協議がされていたとは認められない。

夫婦の主観(共通認識なし)

・元夫は、遅くとも令和元年6月頃には、夫婦関係は破綻していたと理解していた。
・原告は、令和2年3月頃までの間に、婚姻関係の破綻を明言したりそれをうかがわせるような言動に及んでおらず、婚姻関係が既に破綻していると認識していたとは認められない。
・したがって、令和2年3月頃までに、婚姻関係破綻について夫婦の共通認識ができていたとは認められない。

結論(消極)

不貞行為時、婚姻関係は既に破綻していたとはいえない。

その他

慰謝料額については、不貞行為期間がそれほど長いとは言えないこと、元夫が不貞行為を主導したことなどを理由に、88万円と認定した。
なお、弁護士費用(約38万円)については、別途の損害費目として請求されていないことから、慰謝料額を算定する際の考慮要素の一つにとどめるとされた。

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