事案概要
争点1
婚姻費用とは別に、元夫の口座から引落としや元妻への送金、固定資産税の支払い等がされていた場合に、元妻が不当利得返還義務を負うか。
争点2
別居後、元妻と子が、元夫と元妻の共有名義の自宅マンション(以下「本件マンション」)に居住していた場合に、居住利益を独占したとして元妻が不当利得返還義務を負うか。
夫婦歴
・平成24年5月1日別居。妻と子1人が、本件マンションに居住。
・平成25年9月25日婚姻費用分担調停成立(平成25年10月から婚姻費用月12万円。以下、「本件調停」)。
・平成29年6月17日離婚判決。子の親権者は元妻、養育費は月6万円。本件マンションにつき、元夫の持ち分(4分の3)を元妻に分与)
元夫の主な支出状況
・平成24年5月から平成28年4月までの間、元夫名義の口座から、計約193万円の引落しないし元妻への送金
・本件マンションの固定資産税等の支払い(平成24年度分から平成29年度分)
判断
結論として、固定資産税等の一部(約7万8000円)につき、不当利得返還義務を認めた。
争点1 元夫名義口座からの引き落し等に係る不当利得(一部認容)
元夫の支出が、本件調停成立前か後か、財産分与後か否かで判断が分かれた。
本件調停成立前の引き落とし等
結論:消極(不当利得は成立しない)
理由:婚姻費用分担額は、協議や調停等により具体的な金額が定まって初めて、他方に対する具体的な請求権になる。それ以前の婚姻費用は、それぞれが支出した費用がそのまま婚姻費用として夫婦生活に必要な支出に充てられたというべきであり、一方が負担し、他方が利得を得ることについて法律上の原因が認められる。
本件調停成立後の引き落とし及び固定資産税等
結論:固定資産税等の一部(約7万8000円)につき、妻の不当利得返還義務を認める。
理由:
① 元夫名義の口座からの引き落とし等について
もっぱら元妻の利用によるものであることが認められないか、元夫が敢えて負担する意思で支払ったものと評価され、法律上の原因がないとはいえない。
② 固定資産税等について
本件調停は、元夫による固定資産税等の支払がされることを前提に婚姻費用の分担額を定めたと認められる(よって、不当利得は成立しない)。
ただし、本件マンションの元夫の持ち分が元妻に分与された日の翌日以降については、元夫が固定資産税等を負担する理由はなく、不当利得が成立する(約7万8000円)。
争点2 本件マンションを元妻が使用したことによる不当利得(消極)
夫婦の一方は、夫婦共有財産について、当事者間で協議がされるなど具体的な権利内容が形成されない限り、具体的な権利を有していないところ、元夫と元妻の間で、そのような具体的な取決めをしたとは認められない。よって、本件マンションに元妻と子が居住したことによって、元夫に損失が生じるわけではない。