大学卒業までの学費を元夫が負担するとの裁判上の和解につき、①大学退学後、別の大学に編入した後の学費の支払い義務は含まない、②元夫の収入が期待に反して減少したことは、学費支払義務を消滅させる事情とはならないとした事例(東京地判令3.1.29)

学生とお金 婚姻費用・養育費

事案概要

・平成14年 協議離婚、三子あり
・平成18年 元妻(原告)と元夫(被告)が、裁判上の和解(以下「本件和解1」)
・平成22年 元妻と元夫が、裁判上の和解(以下「本件和解2」)

※本件和解1:元夫と元妻は、平成18年10月以降に発生する子らの大学卒業までの学費(入学金及び授業料に限る。(中略))は、元夫が負担して支払うことを確認する。
※本件和解2:元夫は、元妻に対し、本件和解1のとおり、子らの大学卒業までの学費の支払義務を誠実に履行する。(以下略)

元妻が元夫に対し、子らの学費約3874万円を立替払いしたとして、その支払い等を求めた事案。

元夫は、退学した後に他の大学に編入した場合はそれ以降の学費の支払い義務は負わない、元夫が経営する医療法人社団の売上高が平成24年以降大幅に減少したため、学費支払義務は事情変更の原則により消滅したと反論。

判断

争点1:元妻が立て替えた学費及び支払義務の範囲

・通常、大学に入学するのは子1人につき1回であり、複数の大学に入学することは稀な出来事というべきであるところ、子らが複数の大学に入学することを本件和解1及び2当時に元妻及び元夫が予見し得たという特段の事情が認められない本件において、本件和解1及び2にいう子らの大学卒業までの学費とは、子がある大学に入学した場合のその大学を卒業するまでの学費を指すものと解するのが当事者の合理的意思解釈である
・本件において、元妻が元夫に対し、子がF大学に入学することについて承諾を得たという事情はうかがわれないから、元妻が支出した学費のうち、子がF大学に編入した後の学費約981万円については、本件和解1及び2により被告が支払い義務を負うとはいえない

争点2:事情変更の原則

・平成24年以降、元夫は大幅に収入が減少したため、本件和解1及び2に基づく子らの学費の支払いが困難になったことが認められる
・しかしながら、本来的に契約には拘束力があり、いわゆる事情変更の原則によりその解除や変更が認められるのは、当事者に予見できず、かつ帰責事由がない事情変更が発生し、当初の契約内容に当事者を拘束し続けることが信義則上著しく不当といえるに至った場合に限られる
・本件においては、要するに、本件和解1及び2の後に元夫の期待に反して収入が増加せず、かえって減少したというにとどまり、これは当事者にとって予見し得る事情であるから、これによって本件和解1及び2の契約内容に当事者を拘束し続けることが信義則上著しく不当であるとはいえない
・したがって、事情変更の原則により元夫の学費支払義務が消滅したということは相当ではない

結論

元妻の請求は、約2846万円の限度で認容

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