事案概要
・平成24年 婚姻。妻(被告)には3子いるが、夫(原告)との子ではなくいずれも成人
・平成26年 同居開始
・平成29年 夫が自宅を出て別居開始
・平成30年 夫が離婚調停申立て、不成立により終了
夫が妻に対し、口論が絶えず、別居が相当期間に及んでいること等により、婚姻関係が破綻するに至っている等として離婚を請求した事案。
なお、夫はナイジェリア国籍、妻はフィリピン国籍で、韓国で婚姻したところ、国際裁判管轄は日本、準拠法は日本法である。
判断
争点1:婚姻関係破綻
認定事実
・夫は、平成26年来日し、妻とその3名の子らとアパートで同居を始めた
・夫婦の同居中、夫は、妻の子らが夜中にゲームをすることに関し、やめるよう求めたが、妻やその子らから反対され、意見を聞いてもらえなかった。そのため、夫は、時折、夜間は車で就寝するようになり、十分な睡眠がとれず、仕事に支障が生じるなどした
・上記のようなことが続いたことから、夫は、家庭内で自分は部外者であると感じて、孤立感を深め、妻との別居を決意し、平成29年8月頃、夫がアパートを出る形で別居を開始し、現在まで別居継続
・妻は、平成30年2月以降、名古屋入国管理局に対し、夫の在留資格(永住者の配偶者等)につき、更新を拒絶するよう申し入れた
判断(婚姻関係は既に破綻)
・本件の夫婦関係は、主として、同居中の妻やその子らの生活態度について夫と考えが合わず、夫が車中泊をするなどして疎外感を強めていったこと等により次第に悪化していったと認められる
・妻が、夫の在留資格の更新を拒絶するよう申し入れるなどした
・別居期間が3年半弱継続している
・その間に、後記のとおり、夫が訴外女性と一時的にせよ同居し、不貞行為に及んでいた(その時点で夫婦関係が破綻に至っていたとまでは認められず、この点で、夫はいわゆる有責配偶者と認められる)
これらを考慮すれば、夫婦関係は既に破綻しているといわざるを得ない
争点2:有責配偶者の抗弁
認定事実
(詳細略。平成30年5月頃から10月頃まで、夫と訴外女性が同居していた事実が推認できる)
判断(離婚請求認容)
判断枠組み
有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない(最高決昭62.9.2)
あてはめ
・夫と妻の別居期間は3年半弱であり、相当期間に及んでいると評価できる
・夫と妻の間に子は存在しない
・そこで、妻が、離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等の事情があるかについてみる
・夫婦間の婚姻関係は、夫の不貞行為のみにより破綻に至ったわけではなく、それに先立ち、主として、同居中の妻やその子らの生活態度について夫と考えが合わず、夫が車中泊をするなどして疎外感を強めていったこと等により次第に悪化していったことが認められる
かかる事実関係の下では、妻が離婚によって多少の精神的苦痛を被ることは格別、それが極めて過酷なものであるとはいえない
小括
夫の離婚請求が、有責配偶者の離婚請求として信義則上許されないとはいえない
結論
・離婚請求認容
・離婚慰謝料として、夫の妻に対する50万円の支払い義務を認める