婚姻関係破綻の原因は、元妻が婚姻生活において多額の費用を支出する状況下で、元夫が多額の借金の残高等の説明を元妻にしてこなかったこと等専ら元夫にあるとし、元夫に慰謝料80万円の支払い義務を認めた事例(東京地判令1.5.24)

借金に潰される人 その他

事案概要

・平成23年 婚姻(元夫の借金残高約300万円、元妻はこれを認識せず)
・平成25年10月 元夫がFX投資開始、借金増大
・同年12月 元夫の借金が500から600万円であることを元妻が認識
・平成26年1月 元妻の単独名義で住宅ローンを組むなどして分譲マンション購入 
・平成27年1月 元夫が自己破産の申立(負債総額約1072万円)
・同年12月 夫婦の間で大きな喧嘩が発生、元夫が離婚切出し
・平成28年1月 別居開始
・同年12月 協議離婚

元妻が元夫に対し、専ら元夫による一連の有責行為により婚姻関係が破綻に至ったと主張して、損害金440万円(離婚に伴う慰謝料400万円、弁護士費用40万円)等の支払いを求めた

判断

婚姻関係の破綻原因及び不法行為に基づく損害賠償義務の有無

・元妻と元夫との間では、婚姻当初から、性格の不一致や価値観の相違に起因する諍いが頻発するなどしており、婚姻関係は、円満さを欠いたものであったが、それ以上の格別な問題が表面化しないまま継続していた

・そうしたところ,平成25年12月頃に至り,分譲マンション購入のためのローン審査に関するやり取りの中で,元妻は、婚姻時から元夫に多額の借金があることを明確に認識するに至った
・元夫において借金がないといった虚偽を積極的に告知したとの事実を認めるに足りる証拠はないものの、結婚式、引越し、自動車の購入及び新婚旅行等、婚姻生活において多額の費用が必要となる場面において、専ら元妻が支出している状況のもと、元夫、約2年半の長期にわたり、自己の借金の残額や返済状況等について,原告に対して説明をしてこなかったのであり、その額の大きさ(平成25年12月頃において500万円から600万円ほどに照らし,元妻が元夫に対して大きな不信感を抱くに至ったのは当然といえる
・また、元夫は、平成25年10月頃にFX投資を開始し、多大な損失を被っていながら、元妻に対し、FX投資の結果等を説明しなかった上、自己破産手続に至ってもなお、FX投資による損失や負債の詳細について説明することはなかった
・このような元夫の対応や態度は,夫婦間の協力義務に違背する不誠実なものといわざるを得ず,元妻と元夫とが個別に財産を管理しており、元夫の自己破産によって元妻の財産に直接的な悪影響を及ぼすものではないとはいえ、元妻と元夫との信頼関係を大きく毀損するものというべきである

・こうした諸事情により、元妻と元夫との婚姻関係は極めて危機的な状況にあったが、なお、元妻は、単独名義で住宅ローンを組み、父親から資金援助を受けるなどして、分譲マンションの一室を購入したり、勤務先を退職してまで不妊治療に専念したりして、元夫との婚姻生活の継続を試みていた
・他方、元夫において、婚姻生活を継続するための格別の努力した形跡はない上、元夫は、平成27年12月下旬に元妻の実家に帰省するか否かを巡って発生した喧嘩の際、元妻に対して離婚を提案し、これにより婚姻関係の破綻を決定付けた

・以上指摘した諸点に照らせば、元妻として、元夫の退院直後に泊まりがけの旅行への同伴を求めたり、元妻の実家への帰省を求めたりするなど、元夫の体調や心情に対する配慮に欠ける部分があったといえるが、そうであるとしても、専ら元夫の一連の有責行為により婚姻関係が破綻に至ったと評価すべきである

損害額

・婚姻関係は当初より円満を欠いたもの
・一連の有責行為としてみても、違法性はさほど大きくない
・元妻としても、元夫の体調や心情に対する配慮に欠ける部分があった
・慰謝料額は80万円をもって相当
・弁護士費用は8万円

結論

慰謝料80万円、弁護士費用8万円、計88万円

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