元妻が元夫に対し、建物の所有権に基づきその明渡を求めた事案において、財産分与の調停が係属中であり、また、権利濫用であるとの反論を排斥し、元妻の請求を認めた事例(東京地裁令和3.3.2)

高級マンション その他

事案概要

・平成12年 元妻(原告)と元夫(被告)が、本件建物につき共有持ち分を各2分の1として購入。
・平成14年 婚姻
・平成21年 元夫の持ち分2分の1につき、贈与を原因として、元妻に対して持ち分全部移転登記
・平成24年 長男出生
・平成28年 元妻が本件建物から出て別居開始
・平成30年 離婚認容判決確定

元妻が本件建物に単身で居住する元夫に対し、所有権に基づき、本件建物の明渡しを求めるとともに、不法行為に基づき、賃料相当損害金の支払いを求めた事案。

判断(明渡請求認容、賃料相当損害金は月17万2000円)

争点1:元夫が元妻に本件建物共有持ち分を贈与したか

住宅ローン完済後に贈与を原因とする持分全部移転登記がされていること等を理由に、贈与を認定。

争点2:財産分与調停が係属していることの抗弁該当性

元夫(被告)の主張

本件建物は財産分与対象財産であるところ、財産分与調停が係属中であり、本件建物の元夫の持分割合が原告より多いことは明らかであるから、本件請求は棄却されるべきである

裁判所の判断

財産分与請求権は、審判によって具体的な内容が形成されるまで、その内容が不確定、不明確なものであると解され、単に財産分与の調停が申し立てられたからといって、財産分与の対象財産について直ちに何らかの実体法上の権利変動が生じるわけでもないため、上記主張は失当である

争点3:権利濫用に当たるか

元夫(被告)の主張

本件建物は婚姻中に協力して取得した財産であり、元夫は婚姻時から一貫して本件建物に居住していること、元夫による元妻に対する財産分与の調停申立てが審判に移行している段階で、本件建物の明け渡しを求めるのは権利濫用又は信義則に反する

裁判所の判断

元妻は8歳の子を1人で監護しながら、借家に居住して生活していること、他方、元夫は本件建物のほかに不動産を保有し、安定した不動産運用収入を受け取っていることが認められるところ、元夫が財産分与との関係で潜在的持分を有していたとしても、直ちに所有権に基づく妨害排除請求権に対する抗弁たり得るものではないというべきであるほか、元夫が本件建物に居住し続ける実質的な必要性があるとは言い難い反面、元妻には、本件建物を使用する必要性が認められるのであり、このような諸事情に照らせば、原告と被告が元夫婦であり、両者の間で財産分与に関する紛争が生じているからといって、元妻の元夫に対する本件建物の明渡請求が権利濫用であるとはいえない

争点4:賃料相当損害金の額

本件建物と同一マンション内にあり、階層が低く、専有面積も狭い部屋が1か月あたり賃料16万2000円及び管理費1万円で賃貸に供されていることから、本件建物の賃料相当損害金も月17万2000円を下らないと推認できる


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