交際中に別の女性と不貞行為に及んだことにより婚約が解消された等として慰謝料等の支払いを求めたことに対し、婚約は成立しておらず、内縁関係にもなかったとして請求を棄却した事例(東京地判令1.6.28)

ペアの指輪 内縁関係

事案概要

・原告は昭和43年生まれの女性、被告は昭和44年生まれの男性(前妻との間に子ABあり)
・平成25年 原告と被告が交際開始
・平成26年5月 被告が原告に自宅の合鍵交付
・同年9月 被告が原告の勧めもあり転職して減収、原告が被告方の住宅ローンを支払う等援助
・同年 原告が被告の誕生日祝いも兼ね、両者の名が刻まれた指輪2個(計24万円)を購入、被告に交付
・平成27年 原告が被告方の住宅ローンの支払いを遅滞した際等、被告がたびたび金を無心
・同年4月 被告が原告に「お前はもう一人じゃないんだぞ」「俺と初婚する?」等メール送信
・同年5月 原告が、交通事故に遭った被告のために、交通事故相談所に行く
・同年6月 原告が被告に対し、「子供が欲しいね。」等メール送信
・平成28年6月 原告が被告の母に「結婚はしませんが出来る事は伝えていきます」等メール送信
・平成29年5月15日 交際終了(原告が被告方で他の女性の名が刻まれた指輪を発見)

その他:被告は交際開始後、その母に原告を紹介。原告は被告の子らとも交流あり。


原告が被告に対し、①婚約をしていたにもかかわらず、被告が別の女性と不貞行為をするなどして婚約が解消されたほか、②原告と被告の交際は婚姻関係の形成に向けて合理的期待が形成されており、不貞行為自体が原告に対する不法行為に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料330万円等の支払いを求めた

判断

争点1:原告と被告との間の婚約の成否

積極事情

・原告と被告は、平成25年11月頃には交際が始まり、さらにその半年後には被告が被告方の合鍵を原告に渡したことから、週末を一緒に過ごすなど親密な関係になっていた
・被告は、平成26年8月から平成28年6月までの間、原告から住宅ローンの支払いや生活費の相当分の援助を受け、労災に関する交渉なども原告に任せていた
・原告は、被告の子であるAやBとの間で親交を深めた
・交際期間中にわたり肉体関係を有していた

消極事情

・原告が婚約の存在を裏付けるとして提出する電子メールの文言は、いずれも婚姻の予約の存在を明確に裏付けるものではなく、原告と被告との間で、明確に具体的な婚姻を成立させる旨の合意があったことをうかがわせる言動があったと認めるに足りない
・原告及び被告の名前が刻まれているペアの指輪を購入することは、婚約を前提としていない交際中の恋人同士間でも行われることであり、指輪購入の事実をもって原告と被告との間に婚約があったと認めることもできない
・被告は(原文ママ)は、被告の母に対し、電子メールで婚姻をする意思がないことを明確に伝えており、将来の一時点で婚姻をすることを約束していた女性が交際相手の母親に対して上記内容の電子メールを送付することは不自然である
・被告は、尋問手続きにおいて、原告とは、AやBの年齢等を考慮して婚姻を前提とした交際をしないこととし、その旨を原告に伝えていた旨供述しており、同供述は同電子メールの内容にも適合する
・これらの事情からすれば、上記電子メールが送信された後(平成28年以降)には、既に原告と被告との交際は、原告の精神病の状態も相まって発展していたとは考え難いことからすれば、その後に婚約が成立していたとも認められない

結論

婚約が成立していたとは認められない

争点2:被告による交際中の不法行為の有無

原告の主張

婚姻関係と同視できる程度の内縁関係があったにもかかわらず、被告がその交際期間中に不貞行為に及んだことは、不法行為に当たる

積極事情

・被告は、平成26年8月から平成28年8月頃までの間、原告から住宅ローンの支払いや生活費の相当分の援助を受けていた
・平成27年5月頃には自身の交通事故の示談交渉を原告に任せた
・平成27年12月に退職後、退職前の会社に対する損害賠償の交渉などを原告に任せていた
・原告が同年11月にはうつ病の症状が亢進し、同年12月には一旦退職したことからすれば、その心身に一定の負担がかかっていたことは否定できない
・これらの事実は、いずれも原告と被告との交際が相当程度親密であり、真剣なものであったことを裏付ける

消極事情

・しかしながら、被告は、原告との交際について、婚姻を前提としない男女の交際であったとしており、原告においても、婚姻を前提としない交際であったことを認識していたものといえる
・原告と被告の関係は、(中略)原告の精神病の症状が亢進し、平成27年12月以降、その体調に応じた交際にとどまっていた
・このような事情からすれば、被告は、原告に合鍵を渡してはいたものの、未だ被告との同居生活が開始されていたとは認められず、また、被告に対する経済的援助のみが原因で原告が精神病を発病したともいえないのであるから、原告の被告に対する経済的援助が相当期間にわたり実施され、その総額も相応の金額に上っていたことを考慮しても、原告には、婚姻の成立に向けた合理的期待が形成されていたとはいえないし、原告と被告との関係が、実質的に婚姻関係がある男女と同等の法的保護を与える程度の関係にまで至っていたものと認めることもできない

結論

婚姻関係にある男女の関係と同視することができない以上、仮に被告が別の女性と男女関係を有していたとしても、不法行為に当たるということはできない

結論

請求棄却

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